2025.02.03
SAPベーシス・システム移行

RISE with SAPへの移行およびSAP S/4HANAへのコンバージョン

■前提

D社では基幹システムとして、SAP社ERPパッケージのSAP ERP 6.0を導入していました。
D社でのSAP ERP導入からは10年以上が経過しており、システム基盤の最新化、保守サポート期限切れ(※1)回避のため、SAP S/4HANAにシステム移行(コンバージョン)することとなりました。
また、D社の基幹システムはオンプレミス基盤上に構築されていましたが、SAP S/4HANAへのシステム移行に合わせてRISE with SAP(SAP社が提供するクラウドサブスクリプション)へ移行(マイグレーション)することになりました。
RISE with SAPが提供しているSAP S/4HANA CloudサービスにはPublic EditionとPrivate Editionの二種類がありますが、今回の事例では現行のSAP ERPに蓄積されている業務データ(マスタデータ、トランザクションデータ)、カスタマイズデータやアドオンデータ(アドオンプログラム等)を新環境に引き継ぐという要件があり、現行環境からデータを移行することができるのはSAP S/4HANA Cloud Private Edition (PCE)のみとなるためそちらが採用されました。
※1:保守サポート期限については、ブログ「SAP ERPサポート期限について」をご確認下さい。

レイエントシステムでは、RISE with SAPサービスで提供されているPCE環境への移行(マイグレーション)と、SAP S/4HANAへのシステム移行(コンバージョン)を担当しました。

■システム移行の流れ

D社の基幹システムは、本番機、検証機、開発機の3ランドスケープで構成されていました。
新環境への移行後も同様に本番機、検証機、開発機の3ランドスケープ構成となります。
このため、今回のシステム移行では、3環境全てをSAP ERPからSAP S/4HANAへのコンバージョンを行い、新環境に移行することになりました。
D社基幹システムのシステム移行は、以下の流れで進めました。

■移行方式について

前述の通り、今回の事例では現行環境のデータを新環境に移行する必要がありました。
PCE環境への移行の場合、システム移行はSAP社から指定された移行方式で進める必要があります。
今回の事例では、SAP社の標準ツール「Software Update Manager」(SUM)の「Database Migration Option (DMO) with System Move」オプションを使用したコンバージョンを実施しました。
このオプションでは、移行前後の2つのサーバ上でSUMの処理を実行し、SAP ERPからSAP S/4HANAへのアップグレードとシステム移行、DBMSのマイグレーション(※2)を同時に行います。
※2:SAP S/4HANAのDBMSはSAP HANAデータベースを専用として構成されているため、新環境にデータを移行するためには現行のDBMSであるMS SQL ServerからSAP HANAへのDBMSのマイグレーションを実施する必要があります。

■移行ステップ

D社でのシステム移行は中間機を用意(理由は(※3)を参照)し、現行環境のデータを一旦中間機に移行してから、SUMを使用してSAP S/4HANAへのアップグレードを実行します。
また、新環境はSAP社管理下となっており、移行期間中もSAP社以外はOSレイヤの操作が出来ません。
しかし、移行中はOSレイヤの操作も必要となるため、RISE移行の場合はSAP社から管理者権限付きの仮想サーバであるマイグレーションサーバを引き渡され、そのサーバ上で実際のアップグレード処理を流すことになります。
上記を踏まえ、システム移行は以下のステップで実施することにしました。

※3:移行失敗時も現行環境での業務継続が可能なよう移行作業による影響を極力与えないため、中間機に現行環境と同じ状態のSAP ERPシステムを構築し、そこでコンバージョン処理を実行する方式を採用しました。

■結果

D社のシステム移行は、検討した移行方式、移行ステップにより問題なく、SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行(コンバージョン)、PCE環境への移行(マイグレーション)を完了させることができました。

■POINT

D社でのシステム移行では、以下のポイントがありました。

POINT①

今回使用したSUMのDMO with System Moveには「Serial mode」、「Parallel mode」の2種類の処理方式が用意されています。
それぞれの特徴は以下の通りです。

※4:中間機、マイグレーションサーバのOSがともにLinuxの場合のみ使用可能なシェルスクリプトのみSAPより提供されています。

D社のシステム移行では、システム移行全体のダウンタイム時間の長時間化が懸念されたため、ダウンタイム時間を短縮するための方法を検討する必要がありました。
そこで、今回の事例ではSUM全体の処理時間が大幅に短縮されるParallel Modeを採用しました。
この結果、Serial ModeではSUMの処理時間が44.5時間掛かっていたところが、Parallel Modeに変更したことで36時間となり、8.5時間分のダウンタイム削減に成功しました。

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