SAP S/4HANAのシステムコピーおよびアップグレード
前提
C社では、基幹システムとしてSAP社のSAP S/4HANA 1511を導入していました。SAP S/4HANA 1511の保守サポートの期限が2020年12月31日で切れるため、SAP S/4HANAのバージョンアップを実施する必要がありました。また、C社の基幹システムは、Amazon Web Service(AWS)クラウド上に構築されており、バージョンアップに合わせてEC2インスタンスを最新モデルのEC2インスタンスにリプレースすることになりました。
システム移行の流れ
C社の基幹システムは、本番機、開発機の2ランドスケープで構成されていました。新環境への移行後も、本番機、開発機の2ランドスケープで構成することになります。このため、全環境を新環境に移行して、SAP S/4HANAのバージョンアップを実施することになりました。C社基幹システムのシステム移行は、以下の流れで進めました。
移行方式の検討
SAP製品(ABAPテクノロジーの製品)のデータの移行(システムコピー)方式は、大きく以下の2つの方式がサポートされています。
① データベース固有のデータ移行方式
② データベースに依存しないデータ移行方式
SAP HANAデータベースのデータ移行(システムコピー)では、方式①のデータベース固有のデータ移行方式のみサポートされているため、C社のデータ移行は方式①で実施することにしました。SAP HANAデータベースで方式①によるデータ移行の場合は、SAP HANAデータベース標準のバックアップ/リストア機能によるデータ移行となります。
今回は、SAP S/HANAをバージョンアップ(1511→1909)するため、SAP HANAデータベースもSAP HANA 2.0にバージョンアップする必要があります。SAP HANAデータベースでは、SAP HANA 1.0で取得したバックアップをSAP HANA 2.0にリストアすることが可能となります。(※1)しかし、C社の現行環境のSAP HANAデータベースのリビジョンが前提条件を満たしていないため、SAP HANA 2.0へのリストアが実施できませんでした。このため、C社ではSAP HANA 1.0同士でシステムコピーを実施して、その後にSAP HANAデータベースをバージョンアップする必要がありました。
※1:SAPノート2653155 – Using backup and recovery to upgrade HANA 1.0 to HANA 2.0
移行ステップ
C社のシステム移行では、マイグレーションが発生しないことから中間機を用意せずに、新環境に直接システムコピーによる移行を実施して、新環境上でSAP S/4HANAのバージョンアップを実施しました。
システム移行は、以下のステップで実施しました。
①現行環境のSAP HANAデータベースのバックアップを取得して、現行環境のデータを抽出。
②新環境でSoftware Provisioning Manager(SWPM)を使用してシステムコピーを実行し、
新環境に現行環境と同じバージョンのSAP S/4HANAを構築。
③SWPMによるシステムコピー中にバックアップデータからHANAデータベースのリストアを実行。
④新環境のSAP HANAデータベースをバージョンアップ。
⑤新環境でSoftware Update Manager(SUM)を使用して、SAP S/4HANAをバージョンアップ。
結果
C社のシステム移行とバージョンアップは、検討した移行方式および移行ステップにより問題なく、新環境への移行と、SAP S/4HANAのバージョンアップを完了させることができました。
Point
C社の現行環境から新環境へのデータ移行(システムコピー)では、SAP HANAデータベースのバックアップ/リストアによるデータ移行方式を採用しました。今回の現行環境から新環境へのシステムコピーでは、以下のポイントがあります。
Point①
SAP HANAデータベースのバックアップ/リストアでは、現行環境がSAP HANA 1.0で新環境がSAP HANA 2,0と、SAP HANAデータベースのバージョンが異なっていても、SAP HANA 2.0に直接リストアを実行して、データを移行することが可能となります。しかし、C社の環境では、現行環境のSAP HANAデータベースのバージョンが低ぎたため、現行環境のSAP HANA 1.0で取得したHANAバックアップデータを、SAP HANA 2.0へリストアすることがサポートされていませんでした。
この結果、現行環境から新環境へのシステムコピー時点で、新環境をSAP HANA 2.0で構成することができずに、システムコピー後にSAP HANAのバージョンアップを実施しました。