クライアントについて
今回は、SAPシステムにおける『クライアント』(Client)について、ご説明します。
一般的にクライアントというと、端末やシステムを操作するためのクライアントツールなどをイメージすると思いますが、SAPシステムでクライアントというと全く別のものを表しています。
今回は、そのSAPシステム特有の『クライアント』の概念や取り扱うデータなどについて、ご説明して行きたいと思います。
※なお、今回ご紹介する『クライアント』は、SAP製品の中でも、SAP Netweaver as ABAPベースの製品(SAP ERPなど)やABAP Platformベースの製品(SAP S/4HANAなど)などのABAPで構成されている製品のみが持っている仕組みとなります。Javaベースの製品や、SAP BusinessObjectsなどの製品には該当しません。
■ クライアントとは?
SAPシステムにおける『クライアント』とは、論理的な環境のことを指します。
システム(SAPシステムのデータベース)を論理的な複数の環境に分割して、個別にデータを管理することが可能となります。
このため、クライアント単位で顧客業務やテスト、開発を行うこと可能となります。
論理的な環境を持つことができるため、SAPシステムを環境ごとにインストールする必要がなくなります。
例えば、複数のグループ企業で1つのSAPシステムを利用する場合に、クライアントを分けることで、個々にSAPシステムをインストールする必要がなくなり、1つのSAPシステム内の個々のクライアントでデータを管理すること可能となります。
また、開発システムに複数のクライアントを用意することで複数の開発環境を持つことが可能となったり、品質保証システムに複数のクライアントを用意することで複数のテスト環境を持つことが可能となったとりと、用途ごとにSAPシステムを準備する必要がなくなります。
なお、SAPシステムでは本番システムでの開発、テストは推奨されておりませんので、本番システムにおいて本番業務用クライアントと開発/テスト用クライアントを作成して運用することは推奨されていません。
■ クライアントの管理について
次にSAPシステム内でのクライアントの管理について、説明していきます。
SAPシステムではクライアントは、数字3桁の000~999までの一意の番号で管理されます。
論理的には、1システム内で1000個の環境(クライアント)を作成することができます。
SAPシステムの標準(インストール直後のクライアント構成)は以下の通りとなります。
Client | 説明 |
---|---|
000 | SAP参照クライアント 出荷クライアント(ゴールデンクライアント)と呼ばれ、全てのSAPテーブルが含まれています。サポートパッケージの適用や追加言語のインポートなどで使用され、本番業務や開発では使用できません。必須クライアントとなるため、削除することはできません。 |
001 | 本稼働準備クライアント Client 000のコピークライアント(SAP S/4HANAからはインストール時に作成はされません)。カスタマイジング設定が可能であり、開発用のクライアントや本稼働クライアントのソースとしても使用できます。SAP S/4HANAでは使用されないクライアントのため、SAP S/4HANAへのコンバージョン時には事前に削除する必要があります。 |
066 | SAP Active Global Supportによるサービス提供に使用されるクライアント SAP ERP以降は使用されなくなったクライアント。SAP S/4HANAからはインストール時にも作成されなくなったクライアントとなり、コンバージョン時には事前に削除する必要があります。 |
SAPインストール後は、本番業務や開発、テストを行うためのクライアントを作成する必要があり、標準クライアント(Client:000)をコピーして作成します。
本番システム、品質保証システム、開発システムそれぞれで、標準クライアントとは別に必要なクライアントを作成していきます。しかし、クライアントは個々のクライアントで独立してデータを持っているため、クライアント数が増えれば増えるほど、システム全体(データベース)のデータ量が増加していきます。
このため、特に本番システムではクライアント数は極力少なくし、本番業務用のクライアントのみ(標準クライアント以外で)が推奨されています。
■ クライアントで扱うデータ
最後に、SAPシステム(クライアント)で扱うデータ(管理するデータ)について、ご説明していきます。
クライアントで扱うデータは、以下の2つに分類されます。
データの種類 | 説明 |
---|---|
クライアント依存データ | 個々のクライアントで個別のデータ 他のクライアントからは追加/更新/削除/参照ができないようになっています。 |
クライアント非依存データ | クライアント間で共通のデータ どこのクライアントから参照しても、同じ値となるデータ。 どこのクライアントからでも追加/更新/削除が可能となります。 |
次にクライアント依存、非依存データにどのようなデータ存在するか説明していきます。
それぞれの扱っているデータの内容は、以下の通りです。
クライアント依存/非依存 | データの種類 | 説明 |
---|---|---|
クライアント依存データ | アプリケーションデータ | 商品マスタや製品マスタなどのマスターデータや、会計記録や取引データなどのトランザクションデータ |
ユーザデータ | クライアントに登録されているユーザ情報(ユーザID、氏名、パスワードなど)や権限情報 | |
クライアント依存カスタマイジング | 会社コードなどのビジネスプロセスの設定(パラメータ) | |
クライアント非依存データ | リポジトリオブジェクト | ABAPプログラムやテーブル、汎用モジュールなどのオブジェクトデータ |
クライアント非依存カスタマイジング | 稼働日カレンダーやプリンタ定義などシステム内で共通の設定(パラメータ) |
アプリケーションデータやユーザデータなどのクライアント固有のデータはクライアント間やシステム間で異なっていても問題ありませんが、リポジトリオブジェクトやカスタマイジングなどはクライアント間やシステム間で異なっているとそれぞれのクライアントやシステム間でアプリケーションの実行結果が異なってくる可能性が出てきます。
では、どのようにしてクライアント間、システム間でデータ(リポジトリオブジェクト、カスタマイジング)の整合性を保つかというと、SAPシステムには移送という機能が存在し、この移送機能により整合性を保つことができます。移送は変更管理とクライアント間やシステム間のデータの反映を行うことができます。(移送機能については、別の機会にご説明いたします)
この様に、クライアント間で個別のデータと共通するデータが存在することで、SAPシステムではシステム内に論理的な環境を複数作成することが可能となります。また、移送機能によりクライアント間、システム間のオブジェクトやカスタマイズ設定の整合性を保つことが可能となります。
この辺りのクライアント、移送という機能がSAPシステムの特徴で、他のERP製品と異なる部分ではないでしょうか。